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Bill Evans
カチャカチャとグラスが触れ合う音、ぎょっとするような笑い声、吸い殻でいっぱいになった灰皿…
1961年6月25日のNYのヴィレッジ・ヴァンガード。
出演はビル・エヴァンス・トリオ。ビル・エヴァンス31歳、スコット・ラファロ27歳、ポール・モチアン30歳。その日は、若く才気溢れる3人のミュージシャンたちにとって、記念すべき作品を収録する日となった。
この日収録された2回の公演は『ワルツ・フォー・デビー』と『サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』という2枚のアルバムとなって、リヴァーサイド4部作と言われる名盤のうちの2枚となっている。
しかしこの公演の11日後、ベーシストのスコット・ラファロが自動車事故で亡くなるという悲劇に見舞われる。
この話を読むたびに、いつも運命のいたずらというか、なぜ、神様はそのような悲劇を得てして作りたがるのだろう、と疑問に思ってしまう。
このトリオは、ビル・エヴァンスにとって最上のトリオであり、とりわけスコット・ラファロとのコンビネーションは二度と再現できるものではなかった。
そのことを知っていたビル・エヴァンスは彼の死後しばらくの間、ピアノに触れることができなかったという。
彼がどれほど失望し、孤独に陥ったのかがよく分かる。
どこに描かれていたか、出典が定かではないのだが、スコット・ラファロという人は相当変わり者だったらしく、ライヴ中、ビル・エヴァンスに向かって「給料が低い」「もっと金を払え」「この下手くそ」みたいな事を大声で怒鳴ったりしていたらしい。まぁ、若いから喧嘩するのは仕方ないとして、あの美しい透き通るようなベースの音から想像する人物像とはかけ離れているように思える。
ビル・エヴァンスもまたかなり変わり者、というか普通の人ではなかったようで、薬物とアルコールの重度の依存症で、そのため歯はほとんど虫歯でボロボロであったらしい。また長年連れ添った恋人を自殺に追い込み、それからすぐに別の人と結婚しながら、亡くなった元彼女のために捧げる美しい曲を作ったりしている。なかなか複雑な精神構造の持ち主というか、天才は紙一重というか、サイコパスというか・・・これまた複雑な気持ちになる。
晩年のビル・エヴァンスの姿は痛々しい。
まだ50そこそこなのに、太っているのかむくんでいるのかずんぐりした体型となり、長髪、髭面、昔の面影はなく、鍵盤を叩く手は腫れあがっている。
しかし彼の紡ぎだす音楽は、全てを超越して、完璧だ。
彼の演奏は本当にどれも素晴らしい。若い頃も、ソロも、トリオも、マイルスとのセクステットも、電子オルガンとの共演も、トニー・ベネットの伴奏をしても、ジム・ホールと共演しても・・・
もし1曲、彼の演奏で好きな曲を選ぶとしたら・・・
1962年4月4日に彼がピアノソロで録音した「ダニー・ボーイ」を選ぶ。
スコット・ラファロの死後10カ月ほどして、ようやく録音したソロ。
10分以上続くアイルランド民謡。
スコット・ラファロを想って静かに、時に感情を吐露し、まるで彼に話けているみたいなピアノの旋律に感動してしまう。
滑り込みアウトで9月15日に間に合わなかったけれど・・・R.I.P.
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文責:Y
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