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MOVIE

「罪と罰」

1983 | 93 min | Colour

Aki Kaurismäki

ーあらすじー

食肉解体工場で働く青年ラヒカイネンは、世の中の全てを呪っていた。ある日実業家のホンカネン宅に押し入ったラヒカイネンは、命乞いする彼を拳銃で撃ち殺してしまう。偶然現場にやって来たケータリング店の女性、エヴァに目撃されるが、どういう訳か彼女は怖がる気配もなく、ラヒカイネンを警察に突き出すこともしないのだった。しかし警察はすぐにラヒカイネンを疑い始め、執拗に追い回すが、ポーカーフェイスを貫く彼をどうしても捕まえられずにいた。警察は証拠品を持っていた浮浪者の逮捕に踏み切り、ラヒカイネンは見事逃げおおせたかに思えたのだが・・・

☆☆☆

 ドストエフスキーの小説「罪と罰」をモチーフに、フィンランドを舞台にして繰り広げられるサスペンス仕立ての人間ドラマ。アキ・カウリスマキ、26歳デビュー作。この時点ですでに彼の作風がしっかり出来上がっているのには驚かされる。

 良い映画かどうか、いつも判断する部分は決まっている。

 監督がどうしても表現したいことが、たった1点鮮やかに浮かび上がるような映画。こういう映画が好きだ。

 近年、ハリウッド方式というか、CM方式というか、15分に1回山場を迎える構成の映画が多い。こういうのは見ていて退屈しない代わりに、全体としての印象がぼやけてしまう感がある。

 逆に最初はのらくら始まって、「なんだかつまらないな」と思うような作品でも、徐々にgrooveが出てきて、最後は清々しい感動に包まれている、なんていうこともある。

 この作品は明らかに後者に部類するだろう。

 作品後半、主人公は追い詰められながら、一方では冷静に偽造パスポートを用意して逃亡を謀ると思わせ、一方では殺害現場に行って、改装中の職人に向かって、「俺を突き出せばお前の手柄になる」と言ってその場を去ったり、と支離滅裂な行動を取るようになる。

 ついに警察が家宅捜索に来たのを知った主人公は、(なぜか)オペラを鑑賞した後、エヴァに電話をかける。エヴァはその電話には出ない。

 ラヒカイネンはため息をつき、古びたオペルに乗り込み、こう言う。

 「そして塵は土に返る」

 ラヒカイネンはエンジンキーを回し、ドアーズの「Love Her madly」が流れ始める。

 この瞬間、迷いが全て吹っ切れて、走り出す青年の心の動きが見事に表現されて、この作品の陰鬱な雲を取り払ってしまう。一種の清廉さ。疾走感。一等輝いているもの・・・見ている側としては、もう主人公と一緒にどこまでも走り抜けたくなっているのである。

 こういった心理描写というのは、アキ・カウリスマキ作品の特徴なのだと思う。この手法ゆえ「分かりにくい」「何が言いたいのかわからない」と言われがちなのだけれど、そこは観客の感じ方次第。根強いファンがいるのはそういうところなのだろう。

 でもカウリスマキが小津安二郎に深く傾倒し、極めてミニマルな手法で心情を表現する、という作り方に最初からこだわっていたのが良く分かる。

 カウリスマキ特有の、じわじわ来る笑いももちろん織り込まれていて観客を楽しませてくれる(地味だけど)。

 夏の終わりの映画鑑賞におススメです。

文:Y



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